「っと、もう戻らねーと。1人で帰れるか?」

「……大丈夫ですよ、もう小学生じゃないんですから」

昔の私を知る人たちは、きっとみんな私のことをまだ小学生だと思ってる。

「小学生じゃないから心配してるんだけど?」

「……え?」

「ははっ、まあいーや。気をつけて帰れよ」

悪い、これ一緒に下げといて、そう言ってまだコーヒーが少し残ったマグカップを私の方へ寄せて、坂崎さんは席を立った。

「あっ、坂崎さん……!ありがとうございました……!」


その背中に声を掛けると、ひらひら、と背を向けたまま手を振って、彼は去って行った。



窓越しに、お店に戻って行く坂崎さんを眺める。




坂崎さんは、"助手席の女が大我の特別だと決まった訳じゃない"、そう言ってくれたけど、私は本当は知っている。




昨日は私の特等席だったその席に、お日さまみたいな眩しい笑顔を浮かべて座っていた"あの人"を。