過保護な次期社長の甘い罠〜はじめてを、奪われました〜

危険な色香を纏い甘さを含んだ眼差しで捉えられてしまえば、金縛りにあったように身体が固まってしまって、逃げるだとか抵抗するだとか、そんなことは全く思い付かなかった。

まるでスローモーションのようにゆっくりと近づいて来る坂崎さんのキレイな顔。

それを呆然と見つめる私の頭に過るのは、やっぱり大我の顔で。

私を揶揄っていたずらっ子のように笑う顔、キスをする時の、そっとまつ毛が伏せられた色っぽい顔、そして今日の、辛そうに歪んだ顔。

……ああ。結局私の心は大我に埋め尽くされていて、上書きなんて全然出来る気がしない。

それに何より、大我のキスを違う人のキスで上書きなんてしたくないし、大我以外の人にキスされるのはやっぱりいやだ……!

唇が触れそうになる直前、我に返った私が咄嗟に自分の手で唇をガードしようとした時、ガラッと個室の引き戸が乱暴に開けられる音がして、私の手より一瞬早くゴツゴツした何かが私の口元を覆った。

「……んんっ⁉︎」

「……あっぶねえ……」

「……あーあ、間に合っちゃった?」

「竜、てめえ、ふざけたマネしやがって」

頭上から低く響くその威圧的な声。

ふわっと香る、ホワイトムスクの香り。

私と坂崎さんの僅かな隙間に割り込んできたのはその人の、温かくて大きな手。