__縷々視点__


私は十六夜縷々。この幻影鄉とは反対に位置する幻想郷…そこで吸血鬼が住む館,紅魔館に仕える十六夜咲夜の,所謂闇の姿。

そう,私が居る場所も紅魔館とは似て非なる場所,黒魔館。

そして私がお仕えしているのは…
誇り高き吸血鬼,ツァイト・ペルシャンブルー様,妹君であらせられるツァイト・シルフィア様。

「あはは縷々ー!見てみて〜!ひれ伏せ…我は誇り高き吸血鬼なるぞ!ねぇ威厳あった?あった?」

ぴょんぴょんと跳びながら純粋無垢に問い掛けてくる小さな吸血鬼。
そう,この御方こそが私がお仕えする黒魔館の主,ツァイト・ペルシャンブルー様。

「お言葉ですがペルお嬢様,本当に威厳のある御方は威厳あるか等と問いませんし,誇り高い,などとも早々口にしません。」

ズバリと言ってのける私に頬を膨らませる可憐なお嬢様。吸血鬼としてはまだまだ幼い身,けれど私より強い事は確か。

「時にお嬢様,私少し澪音と買い出しに行ってきますわ。館の事お願いしますわね」

「えぇ,行ってらっしゃい縷々!気を付けてね!」


幼子の様にブンブンと手を振り見送る主にクスッと微笑み,門の前で待つ彼の元へ歩み寄る。

「…何だか今日は…嫌な天気ね」

空を見上げ零す。

「なーにしてんだよ縷々,行くぞ〜」

数メートル前で待つ彼にはぁ,とため息を付きながらついて行く。
この後に起こる悲劇を,知りもせずに…


__数分後__


「でな,その時ペルがよー?」

「いい加減お嬢様と呼びなさい,貴方も黒魔館に仕えている身なのだから…あら?」

目の前に立つ人影。私はその人影に見覚えがあった。

「銀?銀じゃない,どうしたのよ?師匠と喧嘩でもしたの?」

明らかに何時もとは違う雰囲気にたじろぐも,彼女は友人。何かあったのだろうと近付くと彼女は突如牙を剥き出しにし,爪を伸ばし攻撃してきた。

「きゃっ…!」

突然の事に避ける事が出来ず食らってしまう。
おかしい。こんな事今まで無かった筈だ。

「お,おい!縷々大丈夫か!?何すんだよ銀!」

慌てて駆け寄ろうとする彼を手で制する。
何かあった,所の騒ぎじゃない。
彼女の体から漏れるオーラは…闇そのもの。
闇を操る能力を持つ自分だからこそわかった事。彼女は何かに…操られている。

「ねぇ銀…辞めて頂戴,こんなの…師匠が喜ばないわ」

彼女の動きを止めようとスペルカードを発動する。だが闇と化した彼女にはまるで効いていない。

「なッ…!?きゃあああ!」

尋常ではない力で吹き飛ばされ,意識が朦朧とする。

「辞めて…お願い…どうして…こんな事…」

何があったと言うのだろうか。
幾ら喧嘩っ早い彼女とは言えど,今までこんな事は一度も無かった。

「もう見てられない!縷々は俺が守る!」

私を守る様に庇い立つ,澪音。

「辞めて…何か…おかしいの…」

「んな事知るかよ!縷々がここまで傷付けられて黙ってられるか!」

激高しているのだろう,澪音が彼女に向けて攻撃を放とうとした直後。


どーん,という音と地響きがしてその場が煙る。

「対象確認。命令を実行。」

機械の様に呟き彼女に攻撃をしかける彼__ゼータ。

ゼータもまた,私同様,銀の友人。
今のゼータは只,命令を遂行しているだけのロボットと化して居る。

「ぐッ…くそ…ッ」

痛手を負ったのだろうか,彼女の苦しそうに呻く声,逃げる音。
彼女を追いかけようとするゼータを引き止めた澪音は,何時にもなく真面目な顔をしていた。

「…あいつ…何か隠してる…それに銀が関わってるのにレオが出て来ないのは明らかにおかしい。…何か,俺達の知らない所でとんでもねぇ事が起きようとしてる」

彼女の去った方角を見つめ,フラフラと立ち上がる。

「…行かなく,ちゃ…」

追いかけようと歩を進めるも,ダメージが大きかったのだろう,その場に倒れ込む。

「動くな!ったく…ん?」

ばさ,と大きな音が聞こえ空を見上げる。
物凄いスピードで武器を持ち彼女を追い掛ける後ろ姿。

「…ペル…お嬢様…?」

いつから見ていたのだろうか,お嬢様はいつもとは違う雰囲気だった。

「……止められなかったわ…お嬢様も,銀も…」


戦いで消耗していたのだろうか,澪音に抱き抱えられそのまま意識を失った__