「も、もっとリーズナブルな食パンがあるんですか?」


「世の中、広いですよ。リーズナブルといえば、この値段でこの美味しさ? といったような、一度食べたらやめられない商品も存在する」


「へええ~」


一体、どこのスーパーで売っているのだろう。瞳をきらきらさせる冬美に、陽一が胸を張った。


「僕は独身生活が長いからね、冬美さんが思う以上にいろんな経験をしています。どんな食材も調理しだいでご馳走になるものだから、まあ、任せてください」


陽一は企画課リーダー。家庭でもその手腕を発揮しそうだ。


「じゃあ、例えば……朝食メニューはパンと目玉焼きとコーヒーですよね。どんな感じに調理するんですか?」

「そうですねえ。僕は時々、あれを使います」


陽一はキッチンに行くと、荷ほどきをしていない段ボール箱から新聞紙の包みを取り出し、持ってきた。


「なんですか?」

「以前、キャンプ場開発を企画した際、メーカーが記念にくれたんだけど」


新聞紙から現れたのはスキレット。アウトドアでよく利用される、鋳物のフライパンだ。


「鉄製ですね。わ、小さいのに重い」

「僕の愛用品です。これで調理すると、単なる目玉焼きも違う味になる」

「本当に? フライパンみたいに使えばいいんですか?」


前のめりの冬美に、陽一はにこりと微笑む。


「明日の朝、実演させていただきますよ」