「僕のほうは冬美さんが喜ぶと思って、あのレストランを基準にしてデート先を選んだわけです。あと、伊勢エビとかあわびとか、海の幸を味わってもらいたくて」

「……つまり、私と課長はお互いに」

「グルメだと思い込んでいたようですね」


なんてことだろう。

開けてみれば、単純な行き違いだった。

だけど冬美は感激した。あの日の、たったあれだけの言葉をこの人は覚えていて、デートに反映させたのである。


「ありがとうございます、課長。そんなに思ってくれてたなんて、感激です!」

「こちらこそ。でも、僕らはまだまだですね」


結婚生活は始まったばかり。

一緒に暮らすのだから、お互いのことをもっと知らなければ。

だけど、こんなに嬉しい課題があるだろうか。


「でもさすがに、半額弁当は引きますよね。あと、100円の食パンとか?」


冬美がもじもじすると、課長が即座に「いいえ」と否定する。


「半額だろうが、食べて満足できれば御の字です。それに、100円のパンなど驚くに値しません」

「へっ?」


意外な返事を聞き、変な声が出た。