バスの中で、二人は他愛のない話をした。多少の遠慮はあるが、食事の前に比べたらずいぶん打ち解けている。

舘林課長は優しくて、物知りで、なにより「こちら寄り」のタイプだ。冬美の中で、彼の好感度は上がるばかりだった。



「わあっ、きれい!」


明るい太陽のもと、青い海が輝いている。

冬美は駆け出し、潮風を胸に吸い込む。ここが助清くんの故郷。何て素敵な場所だろう。もっと早く来るべきだった。どうして今まで来なかったのか、我ながら不思議でしょうがない。

後ろを振り向き、ゆっくりと歩いてくる課長に大きく手を振った。


「かちょうー! 海ですよー!!」


課長も手を振り返し、まぶしげに目を細めた。


「写真を撮りましょうか」

「は、はいっ。お願いします!」


課長にスマートフォンを預けて、海の前に立つ。助清くんみたいに両手を広げたポーズをとり、にっこりと笑う。

ちょっと恥ずかしかったが、課長ならいいと思った。オタ友が皆そうであるように、こんな自分を笑ったりせず許容するだろう。いや、むしろ協力してくれる。


「撮りますよ。3,2、1……」