「ど、どうしました。顔が真っ赤ですよ?」

「舘林課長。実は私も……」


こうなったら言ってしまおう。この人なら、きっと分かってくれる。

ここは旅先。立場なんて関係ない。


「私だってそうです。今日は助清くんへの思いを吹っ切るために、傷心を癒やすために、下田まで来たのです!」

「助清くん?」


冬美は熱弁した。自分がアイドルオタクであり、非オタの友人が引くほどのめり込み、給料を惜しむことなく使って、めいっぱい活動していることを。

そして推しに失恋し、傷心旅行を決意し、今に至るまでの心情をすべて告白した。

舘林課長は食事を中断し、耳を傾けている。一言も聞き漏らすまいとするかのように、じっと、冬美の目を見つめて。


「推しとか、好きな食べ物とか、自分だけの価値観とかこだわりがあるって、素敵じゃないですか。夢中になって追いかけるのは純粋に幸せですもん。ですから、間宮課長の言うことなんて気にする必要はありません! だって、私やあなたがこんなにも幸せなのを、あの人は理解できないんだから」