足もとがふらつくが、逃げるように駆け出した。


家に帰ってからもぼーっとして、何をする気にもならない。公式サイトのお知らせを確認するのがせいっぱいだった。しかも結婚のニュースが真実だと分かり、よけいに脱力した。


夕飯も食べず、風呂にも入らず眠ってしまい、目が覚めると真夜中だった。

少しだけ冷静さを取り戻していた。


「助清くんのファンなら、お祝いしなくちゃね。おめでとうって……」


まだ涙がこぼれるが、さっきよりかなしみが薄らいでいる。さみしさはあるけれど。


「明日が土曜日でよかった。会社は休みだし、助清くんとの思い出に浸ろう」


でも家でじっとしていられるだろうか。悶々として、つらい思いを抱えて過ごすことになる。とてつもなく不健康な気がした。

書棚から古い雑誌を抜き出し、推しを好きになったきっかけの特集を眺めた。

当時冬美は二十歳(はたち)。助清くんは17歳。高校の制服を着た彼はまぶしくて、明るくて、きらきらと輝いていた。三つしか違わないのに、すごく可愛く感じられて、強烈に惹かれたのを思い出す。

特集の撮影地は伊豆の下田。助清くんの生まれ故郷である。


「行ったことないな、下田……」


17歳の少年が、海をバックに爽やかに微笑み、冬美を手招きしている――ように見えた。