「灯くんがいいの。あの日みたいに……キス、して欲しいよ」

まさか、音桜があの時のことを覚えているなんて思ってもみなかった。

だって、あの日の彼女は、片思いしていたクラスメイトに振られたことで頭いっぱいだったはず。

だから俺のことなんて……。
それに……。

俺が中学に上がってすぐのこと、音桜は小学5年生になっても相変わらずいつものように放課後、俺を遊びに誘いに来ていた。

好きなやつがいながら俺にべったりだったのは、本当罪なやつだと思う。

そんなある日、ちょうどクラスの友達と放課後、ゲームする約束をして一緒に学校から帰ってきていた俺は家の門の前でばったり音桜と会った。

『灯くんっ!』

パァっと目を輝かせながら俺の名前を呼ぶ音桜。

その姿に胸がきゅんとした。

でもそのすぐ隣から、

『灯の知り合い?あの小学生』

『……っ』

一緒にいた友達の問いにうまく答えられなかった。