「ものすごく心配したのよ……」
『仕方ないだろ? 避けようがなかったんだから』

兄は平然としているけれど、一歩間違えば大事故だったはずだ。父と兄が軽傷だったのは運がよかっただけ。
安堵で涙する私をよしよしと駿太郎さんが撫でてくれている。会話の端々で父と兄の無事は伝わっているようだ。駿太郎さんもまたほっとした表情をしている。

『ともかく、芽衣子は妊婦なんだから、病院はいい。家でのんびりしてろ。こっちは平気……あ、わり。またかけるわ』

急に兄が電話を切りあげようとする。聞き返そうとする私の耳に、女性の声が聞こえた。

『凛、来たから』

そう言って電話は切れた。どうやら、兄の元婚約者が病院に到着したらしい。
電話を終え顔を上げると、気が抜けたのか無性に泣けてきた。ボロボロと大粒の涙をこぼす私を駿太郎さんが抱き寄せてくれる。

「……よかった、本当に」
「ああ、円山先生も鉄二も無事でなによりだ。きみと赤ちゃんも……。本当によかった」

私は彼の顔を見つめ、泣いた顔のまま笑う。

「駿太郎さん、格好よかった。私と赤ちゃんを優先するって言い切ったとき」
「あれは……咄嗟に」
「重たいのに、ひょいって抱き上げてくれたのも。びっくりしたけど、すごく格好よかったです」

駿太郎さんは照れてしまったようで、赤い頬でうつむく。シャイだけど、男らしい彼。
今まで、優しいところばかり見てきたけれど、大事な場面ではあんなに強い口調で気持ちを伝えてくれる。彼の新しい一面、というより、芯の強さを見た気がした。