「表参道よ。駿太郎さんと買い物」
『俺も合流していいか? 一緒に昼飯食べよう』

いいとも言わないうちに電話は切れた。駿太郎さんを見上げると、声は聞こえていたようで苦笑いしていた。
兄は三十分ほどで合流した。私たちの目的地である複合施設に車を飛ばしてきたらしい。ショップでギフトを選んでいる私たちの元へへらへらと歩み寄ってくる。
私はじろっと兄をねめつけた。夫婦のデートを邪魔しにくるなんて、とても兄らしい。

「兄さん、失恋してから暇を持て余しすぎよ」

はっきり言葉にしてやると、兄は顔をしかめた。

「おまえ、兄の傷をえぐるなよ」
「退屈だからって、妹夫妻に絡むなんて」

兄は先月、婚約者に振られ、婚約を破棄された。まあ、恐れていた通りというか、案の定なのだけれど、兄の猫かぶりがバレたのだ。いくら未来の政治家とはいえ、今は議員秘書。
片や婚約者は大企業の令嬢だ。立場はあちらの方が上であり、結婚をやめるなどと言いだされたら成す術もなかったようだ。

「鉄二、今も彼女のところへ通ってるんだろう? 誠意を見せるために」
「まあ、ポーズだよ。ポーズ。俺としては彼女と結婚できた方が都合がいいからさ」

駿太郎さんの言う通り、兄はちょくちょく元婚約者の凛さんに会いに行っているようだ。
そんなストーカーまがいのことはやめた方がいいと忠告はしたのだけれど、どうも凛さんも会いにくる分には迷惑がっていないようなのだ。これはお互いにまだ脈があるのかもしれない、と私と駿太郎さんは見守る姿勢でいる。