エリート官僚は授かり妻を過保護に愛でる~お見合い夫婦の片恋蜜月~

手を洗ったり、コートをかけたりして、シャツにスラックス姿のままリビングのソファに腰かけると、芽衣子が目の前のローテーブルにほうじ茶の湯呑みを置いた。自分の分も横に置き、隣にちょこんと座る。
芽衣子から近づいてくれている。俺は身体を捻じって、上半身を彼女に向けた。

「芽衣子、今日は鉄二と話してきたよ。お祝いを言われた」
「この先も体調で迷惑をかけるかもと思って、兄ともうひとりの事務員さんには妊娠を先に伝えたんです。私もお祝いを言われました。感動しているみたいで、ちょっと目を潤ませていて。あの兄が」
「鉄二にもそんなところがあるんだね」

ふたりでくすくすと笑い合う。

「体調は平気?」
「ええ、少しずつ吐き気も治まってきて。来週四ヶ月健診なので、赤ちゃんの成長が確認できるのが楽しみです」
「俺もまた、休みを取って行こうかな」
「ふふふ、無理しないでくださいね」

なんだ、こうして喋っていれば普通に会話できるじゃないか。
安堵し、すぐに違うと気づく。きっと、芽衣子の方が歩み寄ってくれているのだ。不器用な俺との距離を詰めようとしてくれている。そんなところが好きなのだ。

俺は思い切って彼女の手を握った。芽衣子は少しびくっと肩を揺らしたけれど、すぐに俺の手にもう片方の手をかぶせるように添えてくれた。

「芽衣子、きみが嫌な思いをしないようにしたい。だから、どんなことでも言いたいことや不安なことは口にしてほしい」

俺からしたら、精一杯勇気を振り絞った言葉だった。
たとえば、想う人を忘れられないだとか、本当は性行為も含めスキンシップはしたくないなどと言われたらどうだろう。それでも言わなければならないと思った。

「俺はきみの希望に添うようにする。俺は、きみが……好きだから」
「駿太郎さん」