エリート官僚は授かり妻を過保護に愛でる~お見合い夫婦の片恋蜜月~

すると、俺のスマホが振動しだす。
誰だろうとポケットから取り出すと母の名前が表示された。
この時間、この着信……。嫌な予感がするので、俺は着信には出ずに、スマホを鞄にしまい直した。

おそらく母は、俺に愚痴を聞いてほしいのだ。「離れて住んでいて、滅多に会えない息子の声を聞きたいの」なんてことを言って、彼女はしょっちゅう連絡をしてくるのだが、その内容はたいてい日々の雑事と愚痴だ。

本人は言うとスッキリするらしく、次の連絡で「あの件、その後どう?」などと気を利かせて尋ねても「なんの話だっけ~?」という軽い返事しかこない。つまり母の連絡に深刻な話は皆無と言っていい。妻との関係で余裕のない俺は、申し訳ないが対応しかねる。

母さん、すみません。俺は帰宅中で、気づきませんでした。またあとで連絡します。
そう、心の中で唱えておく。



マンションに帰りつくと、芽衣子はリビングのソファで読書をしていた。最近、つわりも少し軽くなっているようだ。それだけは本当によかったと思う。代わってやれないつらそうな姿は見たくない。

「おかえりなさい」

俺を見て、遠慮がちに微笑む。ふと、気づいた。芽衣子が俺の目をまっすぐに見つめてくれている。

「私、お茶を淹れるんですけど、駿太郎さんも飲みますか?」
「ああ、もらおうかな」
「じゃあ、準備しますね」