仕事を終え、霞が関で落ち合った。徒歩圏内で酒を楽しめるところはいくらでもある。鉄二が連れてきてくれたのは、スペイン風のバルだった。

「ありがとうな! 駿太郎と芽衣子の間に子どもが産まれれば、俺も結婚を急がなくていいよ!」

そんなことを言いながら、ビール入りのロンググラス同士をぶつけてくる鉄二。甥か姪が産まれる喜びより、自分の話とは鉄二らしい。

「きみも結婚を急かされるんじゃないかと、芽衣子と心配していたんだけどね」
「それは言われるだろうけど、産まれちゃえば、親父もお袋もしばらく赤ん坊に夢中だろ? 俺のことは棚上げになるよ」
「鉄二、きみは結婚したくないのかい?」
「全部面倒だから、先延ばしにしておきたいだけ」

からっとそんなことを言う。この調子で、婚約者は彼を怒ったりしないのだろうか。
さらにアルコールを嗜みながら、鉄二は婚約者が我儘だとか、感覚が違うだとか、そんな話をする。どうやら、俺の祝いというより愚痴を言いたいだけのようだ。
まあ、これが彼なりのコミュニケーションなのかもしれない。俺のように口下手で話題に乏しい男でも、相槌を打ちやすい話題を提供しているのだろう。恋人の愚痴に軽々しく共感はできないが。

「芽衣子は口うるさいけど従順ではあるから、うまく操縦すれば、いい妻に仕立て上げられると思うよ」

きみ、少し亭主関白な気質だね。俺は芽衣子と協力していい夫婦になりたいんだ。……そんな俺としてはなかなか強い言葉を返そうとして、はた、と止まった。
これはいい機会かもしれない。