三月の頭はまだ冷え込みがきつく、春は随分遠くのことに思える。時折梅の花などを眺める以外は、ふたりとも黙々と歩いた。
そういえば、俺たちは手を繋ぐこともなく夫婦になってしまった。もしかするとこの先も手を繋いで歩くことはないかもしれない。子どもを挟んで並んで歩くことはできるだろうか。

「お昼ごはん、どうしましょうか」

間もなく正午だ。何も考えていなかったし、腹も減っていない。
しかし、芽衣子のお腹には子どもがいるのだ。子どもの栄養のためにも何か食べさせなければとは思う。

「パン屋さんで美味しそうなパンをたくさん買って、ミルクたっぷりのカフェオレと一緒にいただくとか。どうですか?」
「……ああ、それはいいね」

俺の返事が気のないものに聞こえただろうか。路上で芽衣子が立ち止まった。
都心ど真ん中とはいえ、表通りならいざ知らず裏路地はさほど人通りもない。雑居ビルの陰になったところで立ち尽くす芽衣子の表情は、暗くてよく見えなかった。

「芽衣子?」
「私……赤ちゃん、頑張って産みます。いいママになれるように努力します」
「芽衣子、どうした」

歩み寄ると、芽衣子は切ない表情で俺を見上げた。