明日芽衣子と産婦人科に行く約束をした。俺は動揺したまま出勤した。
仕事中は考えないようにしようと思うものの、つい芽衣子のことを考えてしまう。
妊娠検査薬で反応が出たということはほぼ間違いなく妊娠はしているのだろう。俺の子を孕ませてしまった。これでは、彼女に好きな男のもとへ行けとは言えない。
同時に暗い考えも過る。
ちょうどよかったじゃないか。綺麗なお題目を唱えながら、心の奥底では彼女を手放したくなかったくせに。これで彼女はいつまでも俺の妻。
結婚を選んだ時点で彼女は覚悟を決めていたと言えるだろう。過去にどれほど好きな男がいても、俺との未来を選んでくれたと解釈していい。
だから俺が黙っていれば済むことなのだ。彼女に好きな男がいたという事実を忘れ、今までどおり彼女を愛し、生まれてくる子どもを可愛がればいい。それで家族の形は完成だ。
……頭でわかっているのに、心が納得してくれない。
俺は卑怯だ。知り得た情報に耳を塞いで安寧を選ぼうとしている。それが彼女の幸せだなんて欺瞞だ。
「おーい、日永」
環境省の廊下で声をかけてきたのは円山鉄二。芽衣子の兄、つまりは義兄だ。
「円山、……じゃなくて鉄二くん、今日は先生に同行してきたのかい?」
「はは、慣れないよな。せめて呼び捨てにしてよ。俺も駿太郎って呼ぶから。……ああ、うちの円山先生の付き添いでな。俺、秘書だし」
「立候補はいつになるんだ」
「気が早いよ。うちの親父は慎重だからもう何年かは息子を売り出さないでしょ」
俺の顔を下から覗き込むようにする鉄二。笑顔が意味深だ。
仕事中は考えないようにしようと思うものの、つい芽衣子のことを考えてしまう。
妊娠検査薬で反応が出たということはほぼ間違いなく妊娠はしているのだろう。俺の子を孕ませてしまった。これでは、彼女に好きな男のもとへ行けとは言えない。
同時に暗い考えも過る。
ちょうどよかったじゃないか。綺麗なお題目を唱えながら、心の奥底では彼女を手放したくなかったくせに。これで彼女はいつまでも俺の妻。
結婚を選んだ時点で彼女は覚悟を決めていたと言えるだろう。過去にどれほど好きな男がいても、俺との未来を選んでくれたと解釈していい。
だから俺が黙っていれば済むことなのだ。彼女に好きな男がいたという事実を忘れ、今までどおり彼女を愛し、生まれてくる子どもを可愛がればいい。それで家族の形は完成だ。
……頭でわかっているのに、心が納得してくれない。
俺は卑怯だ。知り得た情報に耳を塞いで安寧を選ぼうとしている。それが彼女の幸せだなんて欺瞞だ。
「おーい、日永」
環境省の廊下で声をかけてきたのは円山鉄二。芽衣子の兄、つまりは義兄だ。
「円山、……じゃなくて鉄二くん、今日は先生に同行してきたのかい?」
「はは、慣れないよな。せめて呼び捨てにしてよ。俺も駿太郎って呼ぶから。……ああ、うちの円山先生の付き添いでな。俺、秘書だし」
「立候補はいつになるんだ」
「気が早いよ。うちの親父は慎重だからもう何年かは息子を売り出さないでしょ」
俺の顔を下から覗き込むようにする鉄二。笑顔が意味深だ。



