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俺、日永駿太郎という男はつまらない人間だ。

子どもの頃から勉強だけは得意だった。両親が不仲だったのも理由にあるだろう。
いい成績を取れば喧嘩ばかりの両親の機嫌がよくなる。俺は家庭円満のために勉強をする子どもらしからぬ子どもだった。

父が外資系IT企業の重役だったこともあり、自分も会社員になるのだろうと考えて大学進学までの進路を選んだ。
最終的に、省庁務めの官僚に進路を変えたのは、母の希望を叶えた格好だ。安定した仕事、国内で働けるのは、将来家族ができたときとてもいいことよ、と母は言った。思えば、出張と海外勤務続きの父への不満と反発からだろう。

母の提言だけでなく、俺自身も日本の中枢で働くことに興味はあった。幼い頃からの勉強が役に立ち、試験に受かり、環境省に入省することができた。
仕事は充実していた。
自分ひとりで生活していくには充分な給与ももらえる。このままひとりで生きていくのだろうと考えていた二十九歳の夏、俺に見合いの話が舞い込んできた。
舞い込んできたといってもお相手の父親から直接打診されたのだが。

円山鉄男参議院議員。亡き実父の円山小鉄(こてつ)議員から地盤を引き継いだ由緒正しい政治家一族の議員だった。
息子の円山鉄二は大学の経済学部の同期で顔見知りだった。