時親様は私があの日に話をしたことを信じられないというような表情で聞いていた。

そんな事情があったってこと知らなかった。
依頼があってその場に出向き、実際に女性のなにか、物の怪を感じたことは間違いなかったから、と。

それからのことは自分に任せるようにと時親様は言った。

清原 真宗様の表情がはっきりとは見ることができないけれど、でも袖を目元に当てて泣いているように見えた。
菜の君のお姫様の想いが届いたのだろうか。
そう思うとなんとなく私の心も軽くなったように感じた。

少しして大きな風が吹いて同じように紅枝垂れ桜の木も彼らを包み込むように大きく揺れる。
「すごい・・・、花吹雪が・・・」
風は私と桔梗さんがいるところまで吹き込んでくる。

でもそれはとてもやさしい風だった。

「・・・ありがとう・・・紫乃様・・・どうか貴女の想いも・・・」

風の中からお姫様の声が聞えたような気がした。

「紫乃様、髪に・・・」
桔梗さんがそう言って私の髪に手をやり、私の掌にそっと乗せた。

「あ、桜の花びら」