愛しの君がもうすぐここにやってくる。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「今日も琵琶を触ってらっしゃるのですね」

顔をあげるとやさしそうな桔梗さんの笑顔。
私は扱い方もわからずただかき鳴らすだけの琵琶を弾く手を止めて彼女の方を見る。

そういえば。
この時代にやってきてどれくらいの時間がたったのだろう。
何ヶ月も経ってはいないだろうけど。

はじめの頃は夢だって、早く目が覚めてって、朝起きたときに元の居場所に戻っていることを願っていたけれど、今となっては私がいるこの世界を現実として認め始めている。

ここに来る前に桜が満開で、
ここに来たときも満開。

今は満開から少し散り始め、近いうちに全部散ってしまうだろう。
ここに来てからそんなに長く時間は経ってないと思う。

私は御簾越しに見える春の日差しに明るく咲く桜を見つめる。

「紫乃様、はじめのころはお気持ちが不安定であるようにお見受けすることが多かったのですが・・・」
気遣うように私に言った。
あんまりそんな気遣わなくてもいいのに。

「はい・・・、そうなんですけどね、桔梗さんも私のことを心配してよくしてくれているのに、落ち込んでいても。
それに時親様が私を帰してくれるんでしょう?
そのときを待つしか今はできないですもんね」
私は笑顔で応える。

「そうですね、紫乃様・・・、きっと大丈夫ですよ」
桔梗さんはやさしい声で言った。