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桔梗さんが空を見上げながら言った。
「嵐のような、雲行きの怪しい日が増えましたね。
今も昼ですのに夜のように暗く・・・」
私も彼女と同じように空を見る。

野分かな・・・、私の帰る時期が近くなっているってことだ。
わかってはいるけれど胸の奥が痛む。

なにか気配に桔梗さんが気づき
「時親様が来られました、私はさがりますね」
そう言って几帳の向こう側へ静かに去って行った。

私もあとを追うようにしてそっと几帳の向こう側に出ると、御簾越しに時親様がちょうどやってきたところが見えた。
近くまで来た彼はいつものように御簾を少し上げる。
あのとき抱きしめられた時親様の温もり。

私がずっとアメジストを握りしめていたときの温もり、静かに不安が消えていくような、やさしい温もり。
心から安心できた。
あのときもそうだった。
知徳法師にさらわれて怖い思いをしたけれど、少しずつ消えていった。
私にとって彼は心から必要なひとだと、あのとき確信した。