そんなミノタウロスは、イヅナをジッと見下ろしていた。その目はまるで小馬鹿にしているようである。イヅナの脳裏には、「敵の巣穴にいるのに考え事をしている馬鹿女」とミノタウロスの考えていそうなことが浮かんだ。

「まっ、待って!私はあなたを攻撃したりしないわ。だから、あなたも近付いてくるのはやめて。私、あなたを殺したいわけじゃないの。アレス騎士団にいるのに何言ってるのって思うかもしれないけど、私はあなたたち妖と平和に生きたいのよ!」

体の大きな妖に対し、恐怖が募る。唇を震わせながら、イヅナは想いを伝えた。命乞いをしているわけではない。妖と平和に生きたいという想いが強くあるのだ。それを伝え、ミノタウロスが足を止めてくれなければ意味がない。

しかし、イヅナがどれだけ言葉をかけても、ミノタウロスは止まろうとはしない。よだれを垂らし、目をギラつかせてイヅナを見つめる。

ミノタウロスを薙刀で攻撃すればいいのでは、そう思う人もいるだろう。しかし、イヅナの手は震えており、そして心の中にある「殺したくない」という感情が攻撃できないようにしているのだ。

「うがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」