あやかし戦記 葛藤の炎

そして迎えた満月の夜、イヅナたちは夕方からニコラスの家の周りにこっそりと隠れ、窓の外から様子を伺っていた。いつ彼が人狼になってもいいようにだ。

ニコラスの家は、幸いにも他の村人たちの家からかなり距離がある。森に近いところでのんびり休日を過ごしたいため、獣が出るかもしれない森の近くに家を建てたのだそうだ。ニコラスのその選択にイヅナは感謝している。村人の家が近くにあっては、表に明るみになってはならないアレス騎士団の存在がバレる恐れもあるからだ。

「まだ太陽があるから、人の姿だな」

夕暮れに照らされた部屋の中で、ニコラスはのんびりとコーヒーを飲みながら読書をしている。その様子を見てレオナードが戦鎌を手にしながら呟く。それに対し、ヴィンセントが口を開いた。

「油断するなよ。夜になったら、ニコラスさんは人間じゃなくなるんだ」

人狼の姿になれば、恐ろしいほどの強さと凶暴性をニコラスは持って攻撃してくる。イヅナは緊張で手が汗で湿っていくのがわかった。しかし、いつものように震えてばかりではいられない。ニコラスの人生そのものがかかっているのだ。

しばらくすると、ニコラスは夕食の準備を始める。イヅナたちも購入したサンドイッチを食べ、ニコラスを監視し続けた。

夕日が完全に沈み、辺りは真っ暗になる。星が煌めく中、満月が空に浮かんだ。