【短編】貴方だけを愛しています

騒がしいお兄様と、息が絶え絶えのお父さんを放って、たっちゃんと手を繋ぎ駐車場へと行く。



「早くね!」



「ハイハイ、お嬢様;;」



追い掛けて来たお兄様に、車を回すようにお願いし、寒さに身体を寄せ合いながら、表で車を待つ。



「コーヒー買って来る」



「気を付けろよ」



「すぐそこだよ;;」



でも、寒さに負けて、100メートルあるかないかの目に見える先にある自動販売機を指差し、コーヒーを買いに行く。



「お久しぶりです、唯来さん」



「――たっちゃん!!;;」



「お連れしろ」



「「「『はい』」」」



「「「唯来っ!!」」」



「ん゛ーっ!!;;」



完全なる気の緩み。

自動販売機も目前のところで、的渕慧斗さんと遭遇。

やっぱり会いに来た。

でも、浚われるとは、思いもしなかった。

腕を押さえ込まれ、ハンカチで塞がれた口。

抵抗しても、大男数人に敵う筈もなく車へと押し込まれる。



「家で会おう」



「……っ゛!!」



睨んで、笑って余裕な慧斗さん。

押さえられたまま、車は的渕家へと発車。

抵抗を止め、大人しく車に揺られて数十分。

要塞のような高い塀に囲まれた的渕家へと着いた。