「将也、時間がないのよ!」



「会うだけでも会わないと、断れずに次会ったら結婚式かも知れないぞ!」



「ハッ。それで相手が咲来だったら、最悪だな。妹と同じ顔の女を抱いて――…」



「朝から止めろ!しかも唯来の前で!」


「へいへい」



お父さんに注意を、起き上がった将也お兄様は、やれやれと着替えに行く。

私は空いていたたっちゃんの横で、小さく溜め息。



「気を付けて来いよ」



「寒い……っ」



アウトソールが赤い黒のハイヒールパンプスを履き、超ロングのチェスターコートの前を手で押さえながら家を出れば、お父さんはお母さんと将也お兄様と、お迎えのハイヤーへと乗り込りと、窓から手を振って先に出。

私はたっちゃんが開けたお父さんの車へと乗り込み、ブルブルと震える手でシートベルトを締める。



「震え過ぎだろ」



「寒いんだもん山の中だし;;」



「そこまで山じゃない」



「ありがとう;;」



震える私に見かねて、マフラーを貸してくれるたっちゃん。

バッグに忍ばせてたカイロを出し、揉んで熱を起こし、手だけでもと暖を取る。

行き先はわかってる為、無理にハイヤーを追う事なく、お父さんご自慢の黒いベンツは、坂を降る。