名前も知らない彼が、少し渋っているのを感じる。 そうだよね、知らない人から渡された楽器、吹きたくないよね。 「あ、これ、体験用だから、変に気にしなくていいよ!」 少し、ホッとした表情を浮かべる。 何だ、そんなこと気にしてたのか。 この子、かわいい。 「じゃあ、少しだけ......」 私の手から「あんこ」が離れる。 彼の唇に、リッププレートが触れる。 美しい音が、彼から流れ出た。 ......カルメン、幻想曲。