吸い込まれそうな黒い瞳に見つめられる。なんとか逃げようと視線をそらそうとすれば、そんなことはさせないと言わんばかりに頬を撫でられ、捉えられる。


あの手はつめたいのかな。それともあたたかいのかな。


爪のかたちはどうかな。どんな気持ちであの子に触れているんだろう。逃がさないよって感じなのかな。


あの子が逃げたらどうする?傷つく?きっときみは傷つかないんじゃないかな。



そのうち彼の指が赤いくちびるを這う。ゆっくり、個人で違うものの色や感触、かたちを確かめているみたい。


リップが付いたのかな。わからないけど、なぞっていた指をぺろりと舐めて、そこにくちづけを落としながら保健室の床に倒れ込む。



…というか、床って!!


思わずツッコミを入れたくなる。ベッドがあるのにわざわざ床でいいの?そういうものなの?学校の床って…汚くないの?


見つめ合って微笑み合って、またくちづけを交わす。


ロマンチックな場所でもなんでもないのに、今は世界にあのふたりと、こっそり見ているわたししかいないんじゃないかという気持ちになる。


床…なところは気になる。そもそも学校でこんな情事、ありえない。



理想は夜景が見えるラグジュアリーホテル。


しっかりと一日の汚れをシャワーで流して、髪は彼が乾かしてくれる。少しくすぐったいの。それからふたりでおそろいの飲み物を楽しんで、その日の出来事とか、出会ったころの思い出話に花を咲かせる。


徐々に夜が深くなっていく。細々した明かりが背中を押すみたいに、少しずつ指先が触れ合って、はずかしくて目をそらしてると「こっち見てよ」とせがまれる。