腕を掴んで自由を奪ってくるくせに、攻めるように与えられる熱は甘い。

食べ物に喩えてくるくせに、大切に味わってもらってるのがわかるから文句も言えない。


経験値は天と地ほどの差があって。大事だと思うこともちょっとずれてる。過ごしてきた環境も、夢見てることも違うし、お互いを好きだと思うところが、自分たちにとって自信のないところだったりする。


それを時にはうらやんだり、淋しく思ったりしちゃうけど。



「名前呼んで」



おまけにキスの合間のおねだりがそれ。改めて頼まれるとむずかしいことな気がしてくるのはどうしてだろう。


「…清香」


しぼり出すように小さくつぶやく。前に呼んだ時とは比べものにならないくらい照れくさい。


「うん。なに?」


何って。呼ばせたくせに、意地悪な表情でさらに続きを言わせようとする。

付き合って1年経つけど、きっと優しいきみの悪い部分に、これからも振り回されるんだ。



「……大好き、だよ」


「ふうん、ありがとう」



ぎゅっと抱きしめられる。

ありがとうって素直に言われると、ただのエゴのような気持ちを大切にしてもらってる感覚になる。


真篠くんの心臓の音。心地よくて、どきどきが安らぎに変わってく。できれば今日はこのままいたい。


「彩夜架のリップっていつも甘いよね」


あたたかくてうっとりしてたのにぺろって舐められて一気に目が覚めたよ。安らぎ、カムバック!


「食べないでよー!」

「いやふつう好きなものは食べるだろ」

「お願い!今日はもうこれ以上触らないで……」

「ダメ、まだ足りない」


身体中が痺れてきた。
ほんのりと、気持ちがいい。

気持ちいいキスってこれか、と、知りたいと夢見ていたことをされるがまま。


キスへの答え方がはまだちょっとむずかしいけど、代わりに、何回言っても伝わり切らない、そんな気持ちをずっとあげる。


それはきみを見守る味方たちのなかで、もっとも単純な、愛だけで溢れた存在。