「真篠くん。……とっても寒いね」



合図のようにつぶやくと、彼は頷いた。


それから右手がつかまれて、握られて、少し隙間ができたと思ったら、指が絡んでぴったりはまった。



「……あったかい、手」

「そう?」

「そうだ!ねえ、もっちりよりさらさらタイプのハンドクリームにしちゃったの!」

「さすがにそこに好みとかないから」


そうなんだ。しっかり条件があるのかと思ってた。

考えすぎかなあ。でも楽しいの。考えたいって思うの。


心臓飛び出ちゃうんじゃないかと思ってたけど、案外そんなことない。手繋いだら寒くなくなって安心しちゃった。



「おれさ」


こっちを見る目。深い色。
にっと満足気に口角を上げた。


「手繋いで歩いたの、母親以来」

「…ええっ。うそだあ……あんなにカノジョがいたのに?」

「…というより母親のこと思い出しそうだったから繋がないようにしてた」



わたしは、お母さんと手を繋いだことすらもう覚えていない。写真で見るくらい。そうしてもらえることが当たり前だったから。

心に残っている思い出はもっと別のもの。


真篠くんは、そうじゃない。



「今はいいの?」

「うん。これからは、最後に握った手はおまえの手ってことになるし。そっちのほうがいい」


そう言ったきみはうれしそうで。

それは、ちょっと切なかった。

空気を変えたくなる。だって何もうまいことが言えないから。


「まさか、真篠くんの初体験をもらえるとは!」

「おまえの初体験は何もかもぜんぶおれだな」


あ、悪いコの顔になった。


「い、いつかね!」

「ふうん」

「10年後かも!?」

「ふうーん。おれよりおまえのほうが待てなくなっちゃうんじゃね?」


そんなことが起きるかもしれないなんて、やっぱり恋ってすごいね。