おそるおそる抱きしめ返す。

初めて、触れた。


憧れていた。うらやましかった。彼に触れてもらえる人。彼に触れる人。いつか彼に好きだと言われる人。


「ちふちゃんに話してた、追いかけてみたいやつってわたしのこと…?」

「……そー」


それに、わたしがなれた。


「それなら、恋なんかじゃないって言ったの取り消す」

「…そうしてくれなきゃ困る」


叶った。

うれしい。


こんなにうれしかったこと、今まであったかな?



「おまえが牡丹に言ってた誰より大事にしたいやつはおれのこと?」


あ、今絶対いじわるな顔してると思う。

確かめるように顔を上げると、笑っている真篠くんがいた。作りものでも強がりでもなさそう。



「うん。…真篠くんのことだよ」



そう言うと頰にあたたかな手が添えられた。

彼が近づいてくる。…もしかして!


きゃー!ちょっと待って!と顔を押し返す。



「いやなんでだよ。おまえのために場所は選んだんだけど」

「むり早すぎる!好きって気持ちも両想いも初めてでそれだけで今は精いっぱいだよ!」

「あっそ。ま、おまえのペースなら新鮮でいっか」

「くう……経験豊富アピールしないでもらえます?」

「え、やきもち?」


ポジティブすぎない?


「ちがうから!こんな記念すべき日にそうやってからかってきて、真篠くんって本当悪いコ!」

「記念すべき日…ははっ」


でも、笑ってるからいっか。



「なあ」

「なに」

「一緒に、いろいろ。知ってこーな」


この先には何があるんだろう。わからないことだらけなわたしたちだけど────


「うん。教え合おうね」



この日、花と夕焼けのにおいの場所で、初めての恋が実った。