彼が腕を空に向かって伸ばす。掴まれた手をそのままにしてそうされたから体がバランスを崩した。


「わ、わっ」

「あ、手離すのわすれてた」


抱き留められる。

なにこれ。どういう状況なの?横を見ると彼の顔が近くにあってすぐに突き放した。


びっくりした。びっくりした…!



「いてー。ギャルっぽいのに本当ピュアだな」

「ピュアだよ…!でもこんな男の子と近づいたことないからどきっとしちゃっただけだし!」

「ふーん。おれだけにどきっとなればいいのに」


振り回されている。思えばいつもそう。

一喜一憂したり、真篠くんに何て言われるだろうって考えたり、思い出したり。


「そんなこと言わないでよ。好きな人、できちゃったんでしょう…?」

「え、なんでそれ、」

「ちふちゃんと話してるの聞いちゃったの!」

「げ。おまえって本当に覗くの好きな。あの時そんな前から聞いてたんだ」

「うるさーい!人たらし!期待持たせ!ずるい!」


真篠くんだけにしかどきどきしないって気づいた。きみにしか意識しない。

なんで今まで気づかなかったんだろう。

もう、気づいてなかった時のことが思い出せない。



「なんで。期待しててよ。そういう反応ってことは、おれも期待していいの?」



あきらめていた。

わたしには手の届かない遠い存在だって。

友達だとも言ってくれない。


そのなかで……見つけた可能性。



「うん…。真篠くん、あのね、わたし、きっときみが好きみたいなの」


伝われ。届け。

重なれ。叶え。


ぎゅうっと抱きしめられる。

優しくて、儚い体温。広い腕のなか。少し速い鼓動。



「おれは……もう、たぶん前からすごく好き」