どきどきする。それはきっと、こんな近い距離にきみがいることに慣れていないからだ。ただそれだけなはず。



「…真篠くん、さっきの話、本当?」



顔が見れない。なんだか、ちょっとこわい。


思えば彼といるとき、さっきみたいな沈黙になることなんてなかった気がする。



「べつに。おまえに関係ない」

「答えになってない…し、関係なくないよ」


「おれがただ2位のやつが気に入らなかっただけ。あとあの女と出かけるのも面倒だったし」



うそだ。それくらいわかる。きみってひどい人だけど、そんなひどいことは思ったりしないの。



「……わたしのこと、守らなくたっていいよ。もし守ってくれたなら、ちゃんと教えてほしい。知らないなんて嫌」



もしかして、わたしが知らないところで、こういうことはあったのかな。

思い当たる節はないけど、知らないだけなのかもしれない。



ぐっと顎を掴まれた。



「ちょ、着付けできないよ…」

「もう終わってんだろ」


なんだか、知らない人みたい。そんな瞳をしている。


「守ってなんかねえっつの」

「でも、」

「うるさい。もう黙って」



不機嫌。
ちょっとだけ、こわい。

真篠くん、本当はわたし、きみのこと何も知らないんだね。



「まし───」



呼ぶな、と言わんばかりに、さっきまで別の誰かに触れていたくちびるが重なりそうになる。


どうして。

咄嗟に彼の胸元を叩くと、至近距離で強く睨まれた。


何も映っていないような色のない瞳。

きみはよくそんな瞳をするね。