「あっ! 信号青になったよ!」

近くの交差点。

歩行者用信号機が青になったのを確認し、横断歩道に足を踏み入れたその時だった。

「蒼ちゃん! 今すぐその場から離れて!」

遠くのほうから声がした。

「‥‥‥?」

今、誰か私を呼んだの?

不思議に思い、振り返ろうとすると‥‥‥。

ーーブゥォォォォ。

「‥‥‥!」

信号を無視した黒いワゴン車が物凄いスピードで私の目の前まで迫ってきていた。

‥‥‥どうしよう。

どうしよう⁉︎

すぐに動かなきゃいけないことぐらい頭で分かっている。

だけど、怖くて足がガクガクして動けない‥‥‥。

手に持っているイルカのキーホルダーをぎゅっと握り締めた。

「蒼‼︎ 危ない!」

すぐさま、お父さんが駆けつけてくれて私の肩を押して強く突き飛ばした。

「‥‥‥っ!」

バランスを崩し体が後ろに倒れる。

目の前がスローモーションのようにゆっくりと。

少し先に、お父さんの悲しそうな顔を捉えた次の瞬間‥‥‥。

キキィィィ‼︎ ドンッ! ガシャン!

大きな音が辺り一面に響き渡った。

‥‥‥いやだ、いやだ!

お父さんが撥ねられるなんて!

ーーバタンッ。

私は、地面に叩きつけられると気を失ってしまった。