駆け寄って声をかけるが、ネコは反応しない。もしかして、怪我でもしているのだろうか?
「ネコちゃん、どっか痛い?」
 状態を見ようと手を伸ばしながら、再び声をかける。
 私の手が首の後ろに触れる直前、ネコはパチッと目を開いて――。
『ネコネコ連呼しおってからに。わしゃぁ、ネコちゃうわい』
「あ、ネコちゃんが喋った」
『あほう。わしはネコではないと言うておろうが。小娘、何度言わせる気だ』
 ネコ……いや、ネコもどきは、そう言って不満げにペチコンッと地面に尻尾を打ち付けた。
「えー。それじゃ、なんて呼べばいいの? 名前を教えて? それから私も小娘じゃなくて、リリーだよ」
『ふんっ、わしはベルベリヴァウンゼンだ』
「? ええっと、べるべるばぁー……うん、『ベル』ね! 分かったわ!!」
 幼児の舌にはハードルが高すぎる難解な名前に私は早々に白旗を上げ、愛称で呼びかける。ベルはジトリとこちらを一瞥したが、特段文句は言ってこなかった。