『いっぱい食べるといいッス』
 バイアスはその後も、新しいパンにバターを塗って食べさせてやったり、飲み物を注いでやったり、甲斐甲斐しくリリーの世話を焼いた。リリーは照れた様子ながら、バイアスから差し出されるあれこれを嬉しそうに口に運んでいた。
 その間、俺と彼女の目線が合うことは一度もなかった。それは単なる偶然ではない。リリーが意図的に俺の方に視線を向けるのを避けているように感じた。
 そうして食事の終わり、リリーが新しく付けた養育係のクレアに伴われて退室しかけ、扉の前でピタリと足を止めた。
『リリー、どうかしたか?』
 小さな背中に問えば、リリーがギシギシと軋むような動きで俺を振り返る。
『……パパ、まだ怒ってる? さっきのは、わざとじゃなかったの。せっかくパパが取ってくれたのに、……ごめんなさい』
 リリーが消え入りそうな声で告げた再びの謝罪と悲痛に歪んだ表情に、胸がツキリと痛む。
『俺は怒ってなどいない。リリーがわざと落としたのではないことも、ちゃんと分かっている』