次の瞬間、リリーが滂沱の涙を流しながら憐れなほど詫びを繰り返す。彼女の突然の行動に驚き、俺は即座に反応できずに固まった。
『リリーちゃん、そんなに泣かなくていいんッスよ。ほら、パンはまだ山ほどあるんッスから』
 固まる俺の横で、バイアスがリリーの柔らかな亜麻色の髪をポンポンッと撫でて慰める。
『バイアスさん……』
 リリーが縋るような目でバイアスを見上げるのが、無性に腹立たしく感じた。
 リリーは俺に対し、怯えたような態度をみせる。なのに、なぜバイアスにはそんな目を向けるのだ?
『それより、このシチューは頬っぺたが落っこちる美味さッス。リリーちゃんも食べてみるといいッス。ほら』
『え? ……あ』
 バイアスが匙に掬ったシチューを差し出せば、リリーは僅かな戸惑いを見せつつ、差し出されるままパクッ!と口にした。
『……あ、ほんと。これ、すごく美味しい』
 コクンと飲み下したリリーが、へにゃりと可愛らしく微笑んだ。目にした瞬間、胸にバイアスへの殺意が芽生えたことは誰にも言うまい。