そんな食事の最中、ふとリリーが前菜のサラダばかりをつついているのに気づいた。リリーの食がかなり細いことは、同居して最初の食事ですでに分かっていた。これは主の不在をいいことに、使用人らがリリーの食事を蔑ろにしていたためで、彼女は日頃からオートミールやスープといった簡素な食事しか与えられていなかったのだ。
 既に当該の使用人は解雇しているが、リリーへの所業を思うと、ふつふつと怒りが再燃してきた。
『リリー、パンも食べろ』
 俺は卓の中央に置かれたパン籠から、サックリと焼き上がったクロワッサンを取り上げて、リリーに差し出す。
『はいっ』
 リリーはビクンと大仰なほど肩を跳ねさせ、俺に向かってササッと両手を伸ばす。……ん? 震えている?
 なぜか、パンを受け取るべく伸ばされたリリーの手は、小刻みに震えていた。
『あ、ありがと……っ、あっ!』
 リリーがパンを掴み損ね、落ちたパンは卓にぶつかって、そのまま床へと転がっていく。
『ご、ごめんなさい! ごめんなさいっ!!』