代わりに俺が白羽の矢を立てたのが、かつて騎士団食堂で勤務していた男だった。調理に対し妙なこだわりを持った男で、いかに手早く大人数分を調理するかが最重要の騎士団食堂にあって、主任料理人とその調理手順で衝突し、ちょうど先日退職したところだった。
 そして現在、男は我が屋敷の厨房で水を得た魚のように辣腕を揮っているというわけだ。
『マジッスか!? だってこれ、騎士団食堂の大鍋料理とは別物みたいに繊細ッス! いやぁ、騎士団食堂にこんな凄腕の料理人がいたとは驚きッス。ってか、団長って人を見る目はたしかッスよね~』
 仮にも上長に向かって『人を見る目はたしか』という表現はどうかと思ったが、そこはバイアスのいつも軽口と流してやることにした。