その時、ノックもなしに扉が開き、カツカツと長靴の音を響かせて奥のデスクまでやって来る人物があった。
 そいつは俺の前で足を止めると、いつも通り軽い調子で分厚い書類束を差し出してくる。
「団長。これ、来期の決算書類ッス~」
「バイアス、いつも言っているがノックをしろ、ノックを」
「おっと、そうだったッス。うっかりしてたッス」
 のんきな声をあげるバイアスをジトリとひと睨みして、特大のため息を零す。
 バイアスはそんな俺の様子を気にする素振りもなく、デスクの端に積み上がる処理済の書類を取り上げると、パラパラと捲りながら目を通し始めていた。
「なぁバイアス、昨日の件だが……」
 ゴクリとひとつ喉を鳴らしてから切り出すも、なんとなく言い難さがあって言葉尻を濁す。
「昨日ッスか? なんかありましたっけ?」
 バイアスはキョトンとした顔をして、書類から俺へと視線を移す。
 ……ふむ。みなまで言わずとも察しろというのは、俺の身勝手か。