アルベルト様が眉間にクッキリと皺を寄せ、きつく私を睨みつける。前世の百合は、彼の強面と凶器みたいに鋭い眼差しに惚れ込んでいたけど、彼の手で死亡エンドに追いやられるリリーの立場では、それらは恐怖以外のなにものでもないよ。
 取り戻した記憶はあくまでも、記憶。この瞬間、私の心を占める感情は、今を生きるリリーのものだった。
「ヒィッ! こ、殺さないで……っ!」
 内心の声が、思わず唇から漏れる。
 同時にギュッと瞼を閉じて、厳しい目線から逃げた。
「なっ!? 殺すだと!?」
 ……ぁあ、私のバカ! こんなこと言って、絶対怒らせちゃったよ。……ぅうううっ。
 後悔に押し潰されそうになるが、一度口にした言葉は戻ってはくれない。
「おいリリー、今のはいったい……あぁ。さては、まだ夢を見ているな?」
 え? 予想外の反応に、すぐに理解が追いつかないでいると、頭にポンッと手のひらがのっかった。大きな手は、指先で髪を梳くように何度か私の頭を往復していた。
 これって、もしかして撫でられてる!?