「団長、そんなに焦らなくても魔力の放出後に気を失うのはわりとよくあることッス」
 青くなった俺だったが、バイアスに横から声をかけられて平静を取り戻す。
 バイアスの言葉通り、リリーのさくらんぼの色をした唇からは規則正しい呼吸が漏れていた。
「なるほど、たしかに呼吸も落ち着いてる。これならば、大事はないか」
「じき目覚めると思うッス」
 納得した俺は、リリーの背中と膝裏を支えてそっと横抱きにする。
 俺の手のひらに人肌の温もりを伝えるリリーの体は小さくて、今にも宙に飛んでいってしまいそうに軽い。俺が手を緩めたら、腕の中の幼子が儚く消えてしまうのではないかと、半ば本気で考える。
 この時の俺は、とても不思議な気持ちにかられていた。
 小さな温もりをキュッと腕に抱きしめながら、胸がほのかに熱を持つ。心がこれまでに感じたことのない温かで優しい感情で満たされていた。