「あぁ、すまんがリリーを頼む。俺はひとまず、この場を治めてくる」
 出口付近に集まった客とスタッフの元に足を向けながら、パパがふと思い出したように王様を振り返った。
「……そうだロベール、請求書は後で王宮に回させてもらうぞ」
「ハッ?」
 唐突な言葉に、王様は鳩が豆鉄砲を食ったようなポカンとした顔をした。
 そうしてパパは集まった皆の前で整然と身分を明かし、此度の一件に騎士団長の名でもって箝口令を敷いた。客らに怪我はなかったが、リスたちの暴挙によって発生した装身具などの損傷や移動動物園の設備の欠損に対しては、国が損害賠償を支払うことで合意した。今回の謝罪として全員に移動動物園の次の巡業で使える入場フリーのチケットも配られたが、この代金も同様に国持ちとなった。
「……なるほど。領収書とは、こういうことか。まったく、今回のお忍びはずいぶんと高くついたものだ」
 苦笑交じりに零す王様を横目に、私は頼もしい采配でこの場を穏便に治めるパパの勇姿にうっとりと見入った。そんな私を、ダグラスがちょっと不満げに見つめていたことには気づかなかった。