この時、蒸気が充満する室内にあって、不可解なほど俺の脳裏に彼女の姿は鮮明に映っていた。それはまるで、なにかに導かれているかのように。
「バイアス、廊下の窓を全部開けるんだ!」
「了解ッス」
 即座にバイアスに指示を出し、廊下の窓という窓から蒸気を逃がす。そうして徐々にクリアになっていく視界の中で、再び彼女に向き直る。
 ……あぁ、これが兄の忘れ形見。義娘のリリーか――!
 対峙する少女が俺の義娘と認識するのに僅かな時間を要したのは、臆病に身を縮め、涙の滲んだ目でこちらを見上げるその姿と『悪魔の子』という前評判があまりにもかけ離れていたからだ。俺の目に映る彼女は『悪魔の子』ではあり得ない。
 たとえ彼女が闇魔力や誤った魔力の使い方に傾倒しているのだとしたら、それは周囲の大人が是正し、正しい道に導いてやるべき。それを放棄するのは無責任で、彼女は保護と養育が必要なか弱い存在だ。