想像するだけで目眩がするが、借金と滞納分の税金は、これまでに蓄えた騎士団長の俸給で支払える。実際問題、兄の遺した借金を理由に先祖代々が継いできた侯爵位の継承放棄は出来ない。
 それよりも、俺にとってなにより頭が痛いのは、兄夫妻の忘れ形見、姪のリリーだった。
 王立院に出向く前から、俺はその存在も、彼女が〝魔力持ち〟だということも知っていた。ただし、俺と彼女の人生が交わることはないと高を括っていたのだ。
 それというのも、リリーの母方の祖父母はいまだ健康で、慈善家としても名高い。孤児の幾人かを養子として引き取って養育までしており、当然夫人の両親が孫のリリーを引き取るものだと思っていた。ところが、彼らは『あれはただの魔力持ちではない。闇魔力にまで手を出した悪魔の子、あんな気味の悪い娘は引き取れない』の一点張り。断固、引き取りを拒否したという。
「あ、団長。もう馬車が来てるッス」
「うむ」
 王立院の玄関に横付けされた迎えの馬車に乗り込むと、俺はこめかみのあたりを揉みながら瞼を閉じる。