開院一番で訪れた王立院で継承に関するもろもろの手続きを終え、扉を閉めた瞬間、思わず悪態が口を衝いて出てしまったのも不可抗力と言うもの。
 まさか侯爵位の継承のみならず、兄夫婦が残した大量の借金や滞納していた税金まで肩代わりさせられようとは、誰が想像できたというのだ!?
「俺に怒鳴らないでほしいッス」
 同行していた副官のバイアスがヒョイッと肩をすくめてみせる。
「お前に怒鳴ったわけではない」
 奴の声がどことなく面白がっているように聞こえ、不愉快な思いが募る。
「いやいや。俺と団長のふたりしかいないんッスから、それって必然的に俺に怒鳴ってるのと同じッス」
「……」
「って、だからって無視はよくないッスよ? 無視は!」
 俺はバイアスとの会話を放棄して、ひとり考えを巡らせる。
 それにしても、いったいどんな浪費をすれば先祖代々が溜めてきた貯蓄を使い果たし、さらに大量の借金まで作れるというのか……。