ちょっとちょっとちょっと……樫尾くん! なんで教えてくれなかったの⁉
いくら私が部活休んでるからって、同じ競技に出るなら一言言ってくれても良かったのに……。
って、今はそれよりも。
「試合に行くって、準決勝に出るんですか?」
「そうだよ。そのために、日光浴してパワーチャージしてた。市瀬さんは?」
「私は……トイレに」
「えっ、わざわざこんなところまで?」
「どこも混んでたので……」
約1週間ぶりの会話にしては、わりと普通に話せているほう。
だけど、普段とちょっぴり違う雰囲気に、心臓がバクンバクンと音を立てている。
ただでさえ大人っぽいのに、これ以上色気をまとわないでください。ドキドキしすぎて直視できません。
「……っあ、すみません。引き止めてしまって。お先にどうぞ」
「あぁいや。こちらこそ」
互いに道を譲り、会釈してすれ違う。
すると。
「あっ、ちょっと待って」
先週の時と同じように、また呼び止められた。
「なんですか?」
「あの、こんな時にあれだけど、握手してくれない?」



