「お腹が空いているんでしょう、食べて」

女性が口元に肉を持ってくる。あたしはその肉を口にした。おいしい……。何日ぶりの食事は、涙が出そうになるほどおいしかった。

「お前は鬼だな?でも、人間を襲えないんだろう。そんな妖は初めて見たぞ」

肉を夢中になって食べていると男性に声をかけられる。あたしにだってわからない。何故、この二人を襲おうとしたら激痛で動けなくなったのか。

「あたしが、あたしのこと、一番わからないよ」

肉を飲み込んでそう言うと、男性と女性は顔を見合わせる。そして男性が言った。

「私の名は、フンベルト・エーデルシュタイン。こっちは妻のイザベラだ。私は妖から人を護る騎士団を作りたいと思っている。君には、その騎士団の一員となり、我々に力を貸してほしい。その代わり、衣食住の保障はしよう」

その言葉の後、縄が切られてあたしの体は自由になる。空腹が満たされたおかげで、この人間を喰いたいとは思えなかった。

このまま森を彷徨っていたら、また空腹になる。それが嫌であたしは「ツヤ・シノノメだ」と言い、手を差し出したんだ。この時、あたしの運命は大きく変わったんだ。

鬼でありながら妖と戦い、人を喰うことなく生き続けた。多くの仲間と出会い、別れ、自分も妖だというのに、仲間の命を奪った妖を恨む日々が続いたのだ。