「俺、かなりひどい男だったからアリサのことも傷つけてたと思う。…だからできればそのまま忘れてて欲しい」



忘れるわけがない。

この男は私を道具にしか見ていなくて、子供を産ませるだけの道具だって。

そして早乙女財閥を拡大させるために私を利用しようとしていた男。


そんな都合の良い記憶障害なんか───…
あるわけがない。



「…エマちゃんと、結婚するの?」


「あれ?なんで知ってんだよ。エマから聞いたの?」


「っ、そ、そうなの。前に少しだけ聞いたわ」



私は忘れてなんかない。

エマのことだって最初から覚えていた。


真冬くんに見破られたときは血の気が引く思いだったけど、彼は私の気持ちすらも分かっているかのように責めもしなかった。

それどころか私とエマを繋げようともしてくれているんだろう、さっきだってそう。



「ううん、もういいんだ。結婚はしないかな」


「…え…?」


「普通の恋愛が味わえたし十分。柊にも俺からそこは伝えておくよ」



そんなの、この男らしくない。
あなたはもっともっと非道な男のはず。

それなのに髪も黒く染めて執事なんかして、なんのつもりだって言ってあげたい。