「───…、」
隙間がないから声すら出せないのだ。
その微かな隙間すらも埋めてくる、しょっぱくて激しくも優しいキスに全身が痺れてゆく。
ただ止めどなく流れる涙の先から、熱を与え続けてくる彼をじっと見つめることしか。
「…っ、…!…っ……」
角度を変えて何度も何度も合わせてくる。
まるでそれは時間が止まっちゃったような、ふわふわした気持ちの中で。
「っ、」
後頭部に回された手に抵抗する力だって、その気だってわたしにはない。
それすらもとろけてしまうくらいに、きもちがよくてあたたかくて……はげしい。
「……は…、やせ……、」
銀の糸がつうと引くように唇が離れると、かろうじてつぶやけた。
真っ暗な場所だったのに今はハヤセの顔がはっきりと見える。
もう、この人しか見えない…。
「…丁か半か、でした」
「……え…?」
「どちらに転ぶか分からなかった。でも俺はそこに賭けた。
本当はアリサ様の執事になる件は断ることも可能だったんです」
え、賭けたって……。
じゃあわたしに言わせるためにわざとお姉ちゃんの執事になって、今もいじわる言ったってこと…?
「それくらいあなたは意地っ張りでしたから。でも…やっと認めましたね、エマお嬢様」
「わ…っ、」



