ハヤセside




「悪いね、俺の嫁が手間かけさせちゃって」



エマお嬢様を寝かしつけてリビングへ戻れば、ヘラヘラと抑揚なく言ってくる男がひとり。

それは確実に俺へ対する挑発だということ、そんなものは分かっていた。



「鏡見た?今も見たほうがいいよ」



そのまま夕食後の片付け。

いつも食後に幸せそうな顔をして食べるお嬢様が今日は泣いてしまったため、テーブルに置かれたままのマスカット。


その笑顔を脳裏に浮かべると、目の前の男に対する感情がまた飛び出しそうになる。



「ほら、俺を殺したいって顔してるんだよお前」


「…そろそろお風呂に入ってきたらどうですか」


「このまま話してたら俺を本気で殺しそうだから?」



あぁ、そうだよ。
だからさっさと俺たちの前から消えてくれ。

だけど執事である俺は、そうは言えない。

そんな立場である自分がたまに、この上なく気持ち悪くなるときがある。


昼間だってそうだ。

あんな言葉を聞かせても結局は執事の立場を優先させた。



「明日はいつお帰りになるのですか」


「ねぇ腹割って話そうよSランク執事。もうそんな薄っぺらい敬語いらないんだよ」