それはどうして…?
どういう意味なの…?
そんな質問すら浮かばない今は、ハヤセの膝の上で大人しくしてることしかできなかった。
「ハヤセ、わっ、…拭きすぎ」
「…ぜんぜん足りませんよ」
足りないっていうか、それ以上擦られちゃうとわたしの頬がすり減っちゃう…。
ってくらいにゴシゴシゴシゴシ袖で拭ってくれている今。
「ハヤセだけが良かった…」
「え?」
「ほっぺにちゅーも…、ハヤセだけがいい…」
だって結婚したら、わたしは早乙女 燐とキスまでしちゃうってことだ。
それ以上だってしちゃうってことだ。
そんなの考えたら今にも逃げてしまいたい。
つらすぎる…政略結婚なんか嫌だもん。
でもお姉ちゃんもずっと辛かったのかなって、そう思ったら断れもしなくて…。
「エマお嬢様、」
「…?」
「…抱きしめさせてください」
そんなにも柔らかな声でわたしの名前を呼んでくれるのはあなただけだ。
最初からそうなんだよ。
破壊神って見なかったのも、お嬢様として扱ってくれるのも。
「…うん。ぎゅってして、」
言い終わる前には抱きしめられていたと思う。
まるでずっとそれをしたかったと、それを我慢していたと。
そう伝えてくれるみたいに少しだけ苦しい腕の中。



